二乗千年

ꂭꄨꂻꋅ

2020-11-07

等分された猿も生きる漬け物の味に

中央全部が噴き上げられ雨霰と覗く

自他ともに花たりえる辞書漂白し

動物園に火を飼う我等を喚ぶか異界

歩道橋が崩れて上下のぼく合体

祭り囃子が遅れてくるヌメヌメと飲み込み

鞠が舐める爪先から果てしなく沼

身近な甘い汁愛しい客次々踏まれ

月報を網が冷たく待っている

ヒトとともにある杖ヒト絶滅後育つ

最後の金粉今飛び立ち憩いを失う

部屋が平面で破れているそこから夢だから

袋を雨具にする首へ濁点の嵐

超常にカルマ蔓延る椅子の飢え

囮は県境でレモンを剥く連絡として

映像が砕けている爆笑は止まず

泣く女を絡めとるクラゲ空からはヒトデ

冷蔵庫を閉じれば闇開けば脈打つ

棒読みの助けてから棒抜いて立てる

公害の川色付く妹の写真

日として海を塗る歯車の錆びゆく夜

催眠術で塔が見えるこじ開ければ息

裏山の土を容態にずらす気象

適量の塩で隙間なく家屋とぼく

夕方色の野菜は魂かもしれない

愛しい束縛ありがとうの絵を書く園児

春へ戻る金属気化中止の割り符

銀河旅団は濡れた襞を膨らませ進む

油性で足す土手の白く微かな不安

すべてが意図された図から円形滅ぼす

胸ポケット裏返しビル風めく童謡

塩捨て場にポリタンク甘く滞る

野原が燃えるわたしは無事という逆説

地割れから邦楽戦ぐ力もち

柱時計から下が地底オカリナ吹く

裸見せる室内の闇を生む鏡

生まれて初めて見た足元に漲る亀

林が彷徨うのだガラス化した白衣の中

薬光る一人称に近付くため

壁が冷たいと言うまでに時間差のカプセル

柵自体と柵越しの分断も点呼

古紙に渦中は重すぎる白という純潔

痣に深く着色料爆発の響き

殺意の他どんなものもやさしい人毛

走法敷く住宅地は穏やかな幕

存じ切りモザイク斜めに切るピクニック

予報にない雨天でなければない公園

音波さながら梢に枯れたという実感

瑞々しい眉間のみあり冷気を吐く

市外局番の数だけ曲がる壺は枕

石化を解かれた砂利が舞うプラモデルの川

死角に綯う遠縁豊かに京花火

霊殴る自在の穴に古墳抜き

あるべき目のない純白の塊が男性

美しさにメビウスの輪で象を縛る

草履齧る若者たちの脛から下

バイクの絵を洗う見覚えの薄い二階

竹馬の命をさらう仮の磯

虹の書き置き破裂してトーストは真っ青

リンゴ噛むと摩擦が聞こえるマットの中でも

黒塗りの親這い上がる来世の穴

舞うほど沈む庭いつから粉だったのか

枕にお手玉入れた人為の暗い午前

懲悪の具合はどうだ履物屋

ラジオ絞る唾に混じるワルツを聞くため

象が重い問題文持つ風上で

常に後ろから来る祖母汁物を提げ

怪異の腹著しく濡れ境を彷徨う

ゴーストタウンのモーテルで銃の昔抜く

火と客重ね紙芝居にメモしてある死者

後家の腐心露わに反復記号見せる

屋根から溺れる家に訴状のインク香る

天下に大会というものあり結んで開く

袋から出して農薬を模写する

焼いて気付く宮殿にこころから花を

台の上で産み育ててスプレーで殺す

ガス灯は喉より太く吐かれた善

元の玉に戻るならなぜ宇宙の真似など

空洞祝う鉄パイプを雄たちは囲み

心電図にガンジスは遠い叫びの一種

パスタみたいな歩道にシェフ私服で飛び散る

ミサイル何もかも突き破り除外された軸

アルコールの池に浮かぶ人形の胴

図を重ねる方向に光る樹形の祖

色以外すべてハムの祠は密室

我が子かわいいバネの大群だ吹き抜けを好む

鳴き声印刷され鳥もろとも地表覆う

溝が巨大なカタカナであるようみんな祈って

麻痺を内に秘めた柿ごと切られる墓石

ビル取り巻く体全体でさする愛玩

小さな町の祭りに音なく粉噴く花瓶

基地に渦巻く冷気の右は厳かな脳

尻の断面に鬱然と尻座りに来る

小学生は表裏一体に雨を潰す

呻き声は山に跳ね返り受話器揺らす

錆から鉄棒引き抜く犬の形相まで

古城の壁喰い虫として何度も生まれて月

天地に余る箒を北枕に帰国

歯を軟骨を剥き出す私情の薬科大学

ズボンがぼくを脱ぎ捨てる一切がバカンス

2020-08-02

有機的な喝采に威光刈り尽くす

歯ブラシ突っ込む立法府から金切り声

長雨を帝幽かに綱渡り

密林をサラダと呼ぶ発光体分裂

痣に戻る塩を照らすヒリヒリする明かり

庭に秩序の赤く香る姿を濡らして

受光の束が脳に触れてピーナッツ吐く

ピラフ一粒神隠しの如く盛り付け

ゴルファーから姿勢を抜き国道に足す

火柱また太くなる月の入り口見せて

絡む形を残し髪の毛以外は墓地

ここら広大無辺のゴールで水も流れる

踏み外すに細い犬の燃え立つをして

偽書奇書の類い飼う声として図書館

鉄骨麗しい草花の餌にするには

振り子振り回すものでなく部屋は山吹

洞窟薄く皺を吐く辞めたはずの街へ

都会と思う地形も録音も途切れて

喉の奥に歯を感じ熱い息を浴びる

蛙の腹から燦々とバール取り出す

退化して庭の上から庭揺する

麦藁帽めくると暗唱ばかり

疑い甘く炊かれ消印はブーツに押す

銀賞の清書に慕うべき狂気

野菜焼かれてラジオから断面の話

街と遊ぶ約束してまず噴水割る

地続きを捨て森はゆき香るばかり

四方に影垂らす尾のまま獣螺旋

ホルンは砂と崩れ空室に五トンの私

金串に人肌が伝わる深さ

山閉じる十の位の次は真空

夜である限りは中身を拒む鳥

犬が泳ぐ先へトタンの屋根巡らす

脳裏がサクサクして断面見せびらかす紐たち

上下の半身失えば海への道となる

人は財を牛は名を捨て暑い祭り

透明も穴であり続ければ管

車輪のない聖なる木を六頭立てに

目に両性具有して塚の首を掘る

地に刺す馬蹄長い男が短く来る

「呪うてくだあ」とババが呻く草刈りしながら

擂り鉢に枯渇し続ける人喰い縞

手首押さえても手は咲いてしまう監視下

看取った子供と知恵の輪で繋がれている

重力に海は知性を眠らせる

客は呼吸する半年に被せたラッパ

皮膚繋がりの友よ曙に毛を溜め嘆くか

工場出荷時の暮らしに石版が匂う

赤青パターン化された意思未確定の脳坑

茅葺きの熱源を入れて出す確かさ

記憶繋ぐと古銭犇めく亀裂になる

日の入りをいくら図表にしても舐める

座布団囲む一座に麦溶けていく調べ

塗料寄せて堆く同類を忘れる

香りが透明を捨てぼくの順番が来る

母性より奥に棲む鳥鍵閉める

この世に尊い行き止まりを糠から取り出す

朝焼けに焦がれるものは砂利ばかり

鳩の孤独炎天に絞られて厳密

菌の歌で清めるそばから黒い乙女

ビルを噛む土の弱さに不正な月

ジャムに根付く血管まだマントは背丈に

石造りの爆竹倉庫に修羅名ばかり

石が離れていく手から象の憂いから

拒否に巨石群は酔い半径失う

間欠泉時々論吹き上げ午睡

弱火を見ているぼくもこんな雑兵だった

サイレン何気なく鳴る旗と遊びたい

飾るもよし黒ずむ行為の木はぶつ切り

座らずいる英霊の昔蜂の巣から

耳を塞げば動物園は息の曼荼羅

二階の存在信じるべき泡垂れてくる

乙女は差出人不明に憧れて折り鶴

コヨーテ自覚もなく犯されコピー機の光

たかいたかいして割る砂時計から一瞥

幽霊船の内角の和を踏み外す

鳩が来てチタンの浮き世に熱視線

遅れて光る羊歯泉は凹面に攫われ

道は一切の金槌捨て磁力で進むか

とぐろ巻く皮膚を母に持つ朱色の鞭

カードに書かれた運命ごと轢く乳母車

斧に触れて一番の熱山に没する

しっくりくる生き証人を入れた箱

悪い悦を垂らす静かな簾として

水没したテレビにきれいな魚括る

面積の大きい夢に犬ひとつ

大辞典の全ページに冷凍刑執行

棄権後ゴールで待つ移植部位捧げ持ち

明け方の路上に溺れているドリル

カステラ無尽蔵に出る有頂天というからくり

流浪の深手を引き伸ばして木魚の中へ

抜け殻に絶叫詰めてぼくが飛ぶ

謎につけて己たちの晩餐へ果樹

「いつか」は常に「いつか」港から根底へ足

霜広がる仮眠を頭から下ろす

仮定は複数行土偶に刻まれた話者

流氷の構成要素はすべて縫い目

星が照らす自らの穴の奥縮む

黒一色の小説に身を包む鯰

朝昼泥と晩の姿滴りまた朝

2020-04-06

固く結ばれた握手置き遊ぶ南の島

国土から抜けた歯を慈しむ足

歯車の手前の巨大としてぼくいらない

出口に似て夕日の色に染まらぬ書架

異論たるべき椅子の行列を動かすのみ

橋の裏に従いたい外道と呼ばれても

南の果てシャツ裏返しに鞠つく老人

栓抜けば耳でなくなる噴水前

鯨睦まじく深まる淵であらんことを願う

庁舎混む雨を鎖が演じる中

廃墟に廃人住み毛が生え逞しく街が

行き止まりで立ち止まる身の腐敗進む

印刷所にタコ突っ込みタイヤ痕八つ

長く太い笛吹く明るさしかない樹海

具のないサンドイッチを保持するぼくの空虚

雑な会を開いていく神経の簾

辞書から赤く意味湧く口の中よりも

飲まないひとがしゃべる薬を瓶から見る

踏み潰して種蒔く倫理を絞め上げつつ

灯火をうなじに映す鑑賞会

草を知性の影に縫う周波数の地鳴り

栞挟む次の奇数まであと百十

男クロールで川を渡る見る見る裸にする

町会ごとに魚を焼いて低地の春

密室内部全身で撫でる手にエコバッグ

脅迫機の余生がジャングルジムである

各々散る目的地の世俗の食器

義眼ピカピカ強盗から外れて宇宙へ

息象る気温の夢は国とされ

鉛筆マーク押しつぶす指が床下から

網膜が雪降る遠くに剥がれていく

幽霊ごっこの結末に星ひとつ飲む

疎外の音と意味を断つ文字という分類

熱波に狂ったピストンから迸る曙光

螺旋の溝は爪先に地獄は地底に

廃油を積むキリスト教徒の軽自動車

蛇口をドバドバ出る標識解熱は望めず

頑なに水没教会円錐状

後ろ手に拙さ残る白夜の椀

髪剃って爪切りへの愛示す女

粉の隠れ里に天候はいつも器物

お菓子を包んだ皮膚に血管が浮き出る趣向

ビル切り崩してみれば兜の緒だらけの怪

仏壇からムカデの愛が村に散る

葉物野菜の吹雪を自在に孤立する

水槽に筋肉泳ぐドア開けっ放し

魚肉を感触のまままだ練る宿直室で

熱を帯びたケーブルだ体中床下

ドブと思うことは容易い首都高速

な行を知る第七関節ぼくのかわりに

空中庭園埋めてなお余る蟹が降る

ギターの叙情を石畳にぬいぐるみ剥いている

春暁からくも豚の血としてあり豚滑らす

少年膜を洗う川ならば渡らねば

冷えた泡を吐く大真面目に大目玉に

線香花火の下峠が小さく小さくなる

墳墓の底黒い曜日に生米貼る

真鍮のコウモリ横丁激しく雨

縊る猿から鏡二枚分の嗚咽

石版やおら肉厚に裏山の裏で

潔白靡くだけ靡かせシーソーから除名

断面を見せて立つ馬仮に娶る

炎に熱溜めておく次々と身を投げ

計測塔十階円盤室に邪教

耳たぶ揺らす日没を知らせる警報

鉱山に海より広い解答欄

砂場に砂糖をかけて食った痕ここも銀河だ

意思あり毛を生やす女撫でると喜ぶ

橋を渡るわたし弓なりにゼリー吐く

いずれ消える波紋の半径残す棘

継母の可食部位振りまく猛牛

明かりが細く群れる記憶にない船出

捧げる身の不在を花滴らす畳

稲妻寄せ大瞳孔に沐浴する

書に来る昼の真新しさよわたしは彷徨う

億の因果吐く仮小屋に煙充満

虎が何か食う番組と家督を継ぐ

公園の形を信じている小鳥

獣皮を巻かれてなお海鳴りを打ち消すミキサー

落ちてゆく谷底にも同じ西暦

受粉して猿回し光る花火のそばで

一家離散の家メキメキ肉離れする

胸が壊れて回転木馬を抱き始める

裏も表もまさしく葉一方わたしは紐

爛漫と丸窓を埋め尽くす乳房

老女とウサギお互いの断面に踊る

人々押し寄せてくる陣形は言語である

音・光・匂いを結ぶ嬰児の額

例などなく海の俗はいきなり凍る

目の奥がチカチカして無限の星空

闇に浮かぶ地球の靴へ注ぐ肉体

畑がヒリヒリする約束の縄が腐り

不時着して友擦り込む山肌には薬

憐憫の情は正しく箏を割る

剥製になった沼から破調の梅

カルテ洗う掛け算を口ずさみながら

性欲尽きてただ雲湧くケースの蝶番

横断歩道という閉じた棒グラフに水槽

磯が薄くて板チョコみたい舌が漏れそう

琥珀にある単純な奥いつも雨

2020-02-04

触診の甘みに許す骨の歪み

血走る石と我が家等しく皿を砕く

大陸ひとつ覆う影円く言語の偉大な死

あやとりから家こぼれゆく昼の居間

胃の根底巻き上げて飛ぶ蝶過去形

神も仏も軸一心に吸うほどあり

叫びを見せてくれた鯨ジュースにして飲む

光る青信号の中しとどに残虐

割れ目ならば必ず歯がある脳裏の月

目薬サルの背に差し滴るとき木登り

海峡の歌から石が飛んでくる

食料の底練り上げて柱にする

無線機に伏せる獣姦の形の皿

淑女が淑女を提げ樹海にタービンと埋める

似た者同士の終焉今思えば器楽

過去に戻り畑に列なすウサギの耳

男の紳士性光り長椅子から絵画嫌う

崖に埋め込まれたからトランプ裁断しすぎる

ペンの影も時計からねじれて来る夢

悪童の道連れに泡立つ沼地

ビー玉噛むとギザギザが蟻たちを憎む

おくやみに吹かれて長いくちびるが垂れてきた

座布団敷く座礁領域に不明の笛

天悴む奴らに甘い汁を吸わせろ

柑橘類の白い爆弾性から滝

ネズミが真夏日のポンプを主語ほど孕む

魚の中で風鈴となる獲物たち

布の端に少年置きおかえりと言う

低い切手の裏を舐めて雷は届く

着替えの代わりに蛇と狐の切り絵ばかり

土が異性であり生き埋めは成立せず

培養液でゆすぎ水神を愛する口

成仏の円形をして山に冬

蝿しんしんと降るこころに見えなくもない

巡査が服を脱ぐと実物が濡れていた

生首みたいな聖剣を阿片窟から抜く

雨なら雨で良かったのに秩序は照らした

致死量の枯れ葉吸い込むコクピット

誰もどこにも行きたくない車を拾う白紙

紙片連綿と爛れ月濁る腸の旅

宇宙まで山羊の匂いがするメモ帳

呼ばれた気が常にして種引きずり出す

山鳴りとして太い首を折る恋人

ノコギリしゃぶる家の悲しみは多重にくゆらせ

童話メチャクチャに縫うミシンを死刑で止める

クレーターに信号機みんな落ちてこい

袋詰めの不敵なピクニックを催す

広がりゆく刀という字が不安なまま

沼絡む毛を辿れば複数の犬

痙攣する死者をよそに溝から翼

懐中電灯ワッと手を離れ部品の銀河へ

幹を据えた暮らしに黄昏ばかり散らす

魚引き裂く道理も繰り返す音ではないか

幽霊橋にタコトボトボと足余らせ

奥底は多にして空虚な外宇宙

脛の皮膚たるみ夜明けを待ち受ける

萼を握る手に住む窓もあることだし

動物の祖先は空洞呼吸する

輪ゴム浮かす表面薄く傷だらけ

波書かれて磨り減るラジオに明るい銀河

旅人食べられつつ毛布と不死身のおしゃべり

その身で滝を刺すべく祈る衣服の体温

万民降りて宇宙船とただ戦ぐばかり

悲鳴は廊下に準ずるもの長くて真っ直ぐで

空き地に花が咲いてなお空く視床下部

受精のたび雲を見上げる蓋の命

火の玉憩う輪ゴムとマッチ棒の十字架

接骨院の出窓に茎が折れている

油圧の騒ぎ確か今日ぼくは結社を抜ける

歯軋り立ち込める塚に純金の顎

サソリを半分こにする柱の内と外で

匿名の脚立で嵐を点呼する

消灯の連鎖に肥えるばかりの蛹

王宮少し透けてくれる十字路の裏に

わたしらしくシチュー流れこむマンホール

解剖されたゴリラのまだ生きている眼差し

音節の丸みを帯びた隠し階段

異常な四肢で割る鏡の内とはどこか

一夜にしてすべての飾りは膨らむ定め

天をまたぐ気がして靴を割いている

なぜ清らかな夢を見て泣く暇も告げずに

帯を汚す風光明媚という爆弾

麺を吸う口数奇数の夫婦にされ

柱に旗のように扉取り付けられ室内

自宅を矢で飛び越し向こう・ここ・中にわたし

緑の太陽点々と精神の箍を打つ

犬の失踪いつからか花は名前で呼ばれた

谷ほじくり歪なメッシュの鷹を吐く

遠近法を追う側頭へ紙吹雪

午後の明るい髭が垂れる重力もある

通路も手袋をして湖上に正しく立つ

区切られて服干す色鮮やかな他人

最長の語で刺すべき局員が来たぞ

胴次々打ち上げられ欠番に響く

車輪が付く否定の意味満載の泉

山の今は筆先に染み笑顔のまま

ミンチを売る殴打で寝かせた草の向こう

つがいの本棚から滲み出る突起も人体

ゆっくり押し倒す木の根に記憶の靄

断続的に死んでいく信号を待つ

2019-12-01

襖も砕ける真空にコルセット巻く

水銀吸う窪みが鐘楼を裏とす

町内会を無機質に這う己のコピー

人間プラレール化計画を命じよ螺旋

闇は渇望を光らせて割る口のぬるさ

冷凍されこの世と決別する革紐

実がなり人がなる木謎めく井戸はふたつ

正弦波に苦闘の缶はちきれんばかり

血走る変光星の冬を握りしめゆくもの

スイッチ付近に散る羽毛線路は錆びた

小脇にバインダーの何・か/も・ここに小川があった

シート細切りに望むままに鋏は星座に

あたかも鳥静止を知り編まれるが如く

踊る病気が悲しすぎておとうさんと呼ぶ

残業する腹を他人の皮膚が擦る

魚を離脱し振り下ろす鈍い猿の骨

虚ろな坂優しくて音声データ

味のしない殻から出て黄身色の舌

重篤な黴に日夜の歌謡曲

国が見えるほど大きい片足を抜く

卵にエコー吸い込み追い込む羊淫ら

閉じつつある本に予感の輝く星

天を拒む蓄音機にねじられた痕

命下り川に土盛る長丁場

スキャナーから逃げて標語を塗り潰す囮

ハンカチの裂け目から湖底が溢れる

鼠の脳生きて蛾を踏む断面図

現実に鹿くっきりと引き戻す

半角カナのドア撃ち漏らす光彩の列

縦穴ずっと古道具屋磨り減るのみか

(ここから2015年)

篝火聞く異形に枕の自由あり

野暮に身籠る身体を開きまくる惰性

大工は箱が嫌い弁当は舌下に錆び

糸千本引き連れ仮面の乗るべき場所

いずれ帝になる芯をなぞる余生である

死魚となじるべきか紫の唇して

インクを煮る音は明るい薬みたい

土嚢鮮やかに案内して字でない定型文

干涸びて茨黄色くワニを暴く

窓拡張に拡張を重ね史実を蝕む

霊の悪くとぐろ巻く壁凹面見せ

パレードの大爆発に悴む首

獰猛に絡まる糸から飛び出す爪

クレーン動く黒焦げのコアラを目指して

閉店後に畳一枚と相席する

イワシ刺され長机歩く会議の闇を

端から踏み庭園一夜にしてノコギリ

形なく足であるかという伝令

口いっぱい綿詰め棺の上で吐く

お家はどこと問う声が坑道の道

部外者二人鉢合わせの初夏となりゆく

霧の回路は街にあり淀む力士の影

鉛筆以外の木を初めて見て手帳汚す

手掴みで知らずに食べたものが蟹

吹雪に突如床出現し跳ねるゴムボール

常世ウーパールーパーへ打診し続け朝

骨の宮に九九の位を婚がせる

真っ暗闇を掘れば段差が浮かび上がる

羽毛に沈み込む身体の一番長い喉

手櫛も木で出来ているか仏間においては

稚拙な溝は内に揺らしベルを装う

血の池にてタルタルソースを孕む母

露頭に揺蕩う網辱め岬は嗚咽す

酒代ほどの小鳥は儚い胸で踊る

柱がわたしより太くてわたしであり序の口

霊峰が噴く悪臭に喜びの歌

鍋にひとつある丸みへ海外を注ぐ

粉の魚を掬い出しコンクリで固める

車のガラスだけがその位置で侵している

踊りも知らず記名もなく広場に散る鳥

壺抜いて猿詰める泥の留守に俗世

記憶より定かな首に油を塗る

風船割る一張羅の真夏日の中

昔から娶る蔦に引きずる窓あり

予知してただ怒る座布団の上の鍵括弧

痩せて難しい色になる裸足でいる

川凍らせ過去になる箱開いている

この火が消えたら来てと少女はガソリンかぶる

豊かな町の影絵を指で絶つ命

ケーキ塗る首の数より手首の数

露に歪む旋風を離れゆく火災

画面の悲しい角で満たす前屈の光

西にひとりでいることも掻き鳴らしてくれ

草の削がれた場所にバス停立てに行く

長い豚の皮膚をめくると鼻がある

斧が好きで選ぶ店先に引きずる音

ひとひら蛇は尊く喉は深く

無垢で巨大な記憶もの言わぬおれのぬいぐるみ

栞としてヒトウサギ科の住む瓢箪

海から名乗りを上げる手が続々と巣箱へ

海底ケーブル一部強盗のテントを抜く

身の毛すべて冥府に仕送りして未婚

エコー止まず菜園の穴という家庭に

目の限り電線を見て部屋と化す

星座結ぶ指を離しておくズボン

北枕を開くと鉄それからの余生

無数に貫く川に脳は弁当捨てさせ

電灯は琥珀弄ぶ銀河の主

地下舐めて茨は故人の薄目開く

泣きじゃくる近い将来にも図書あれ

2019-10-21

空間に森の圧迫のみ移す

野辺に錠剤一個ずつ段をなしテレキネシス

放送開始のアナウンスいつまでも団地に

水銀に浸され脳は馬の庭

天使の巨大な輪三つ縦に川を匿う

暗い部屋包丁で暴くリボンの夢

黒衣の男女しかと群れ川底の底たる

電線広がり垂れてくる曇天の糊

民は疎開せよと頷き黒目を入れ替える

自我サクサク焼き上げ歯の並ぶベルトコンベア

呪いの丘に妨げの金属が鳴る

蜂の巣覗く目と合う地底の釜の胎児

かさばる紙離れつつあり澄んだ川

老境どの画鋲を抜けば知れ渡る

海亀から海引きずり出す沖の星

ひとりで笑って泣く芝居の耄碌よ繭か

牛の嬲り有限の蝋に深く兆す

噛んで吐く横縞で椅子工場乱す

左右に時計を壊す胃だ逆流が始まる

砦取り巻く路駐も鉄朝日に輝く

砕けた色眼鏡に雨が貘を置く

火を灯せば人が見えて酢をこぼしている

湿りあぐねた毛のお前たちが淫らに生やした

不信の町にドア温かく歪むまた石

人類殲滅して幽閉を遊ぶ裸体

器伏せてある食器棚に逆立ちしている

雨粒ずっと宙に大広間が出来る

燭台の腐食照らされ浮く情死

介入の意志あり夢は鯨幕吐く

溺れて四半世紀を粥として過ごす

踊れ踊れ毒針よ朱に交わるな

馬術直交催す空間は個室か

純情暴かれると手のない握力で未曾有

置き去りの去る方角へ微塵舞う

肉の中の図星を掻き悠久の腕

息愛するとき豊かにラララ稲妻

買い溜めの杖がむくれて食を断つ

眼中の映画館からボンド垂れる

闇爛れて形成さず竹林の僧

机は小説だ吹雪の中ぽつんとあり

血が数えられるほど硬い修羅のいでたち

十ある生命のひとつ首モニターに録る

ふと欠落を示す川の深夜も緑化し

柱まみれの地下にメガホンで異国語撒く

気温二度の夢へばりつく防火扉

靄に瓶がある以上放つ天にも錠剤

友ら浮力を互いに有し高鳴る宝石

黄泉を逆さに搾る民家の円錐形

依存せよとなぜ呻く銀河こちら側で

儚くして村の成り立ちの舵を濡らす

想像の鳥乾く池二重括弧

髄露わに見せしめの独楽を舐める小姓

潔癖の笏に指折るサナトリウム

無理だから燻されて藻を吐いている

前者として土俗痺れ核なす枯れ葉

触れては虚ろがる固形物に角を与えよ

本分厚くて当てもなく墳墓群に混じる

顔面広大に許し合う蝋の眼鏡

鳴く虎の迷いを目に移し彷徨う

暑い湖畔に惨めな者から光る雑魚寝

腕洗う工場には暴力がある

テレビに意味そのものが映り散らばるシラス

口パクで血を懐かせる歌手の墓

濁音が降るイヤホンは電線から伸び

なだらかな枕へ指が離れゆく

損した旅館の女将が立つ用水路に蜂

知らない競技のボールにも溝深く脱落

稲穂型の骨を王族から毟る

体の前全部が膨らみ地球を成す

白髪をしごくと川に着く俗悪の齢

カーブの先に半身抱く村助からない

歴戦の眉凍りつく命の月

インク透けるほど薄く儚くなく微光

少女の瞼を引く大穴に毛皮の球

廃人たち硬直し対岸のカヌー浮上

ビーチパラソルそこだけ黒く稀有な宴

卵だったかもしれない道振り返ると雲

糸引く吸引終え直立の多指を愛でる

入り用に桶割っておく生誕祭

稚魚を流す大人が叫ぶ砂漠へと

栗すりおろすまろやかなぼくらでありたい

鳥はすべての骨失いシャーレにまんべんなく

麻酔銃がもたらす平穏百合開く

謎めく真っ二つの星柱状黒は内在

浮遊するドリルの空爆下で縄跳び

数珠繰る毎幼少期へ雲泥を乱し

靴紐引けば靴が来る米撒き散らし

絵画と女の服飾られ真新しい洋室

迂回して水暗くなる同じ場所

電池揺れる妊婦と試験管の曲面

御者次々呼び金貨の不定形を握らす

狂うと書かれた立て札遥かに流氷騒ぐ

ポストに枕を突っ込み不眠の蜂嚥み下す

寝室に同情コピーして並べる

飛べる空にクレヨン減らす阿弥陀

テープ剥がれ辞書の重みが降る予報

母音募り産声ばかり流すラジオ

ここに鈴は遺失はあるかと兵の御霊

街定かにペンチを配し午餐せよ

愛も知らずパンを刈り取る鎌を買う

2019-08-25

空爆の夜を浴びうねりだす麦秋

呪縛に咲く花鮮やかに予定して

肉体美の髄であるつもり泥は苦く

真意ほど離れて聳え立つ鉄骨

旅終わるぬるいタケノコの姿を見て

カナで刻む下流の鞠は生きていると

空適当に色濃く情緒を走る電報

軍用機の捩る余地からコーラス隊

シャボン玉を葉書に貼る子ら束の間燃え

止まる牛の意味ばかり引く百度の熱

骸に蔓延るイースト菌を写植とする

駐車場に星座刻む石器の座標

グミ放熱互いは互いでしかない

常緑が吐く砂を浮き輪に通す

突如鋭いドア噴く狭間会話接ぐ

知らず知らずも知る老樹と祖母一体に

蝋で固めた頁が室内楽踊ろう

宙なじる鉾に逆刃の愛ひたむき

王の蛙は香るほどに透明度を増す

他人の顔を手で覆い泣く無傷の卵

目の焦点を大切に露出部へ種蒔く

日差しは強い満面のダミーそこかしこ

時は大正、精神をやられた鳥にも巣

吸引の跡を模写しつつ襞も整え

奪い合う席きらめかせ宮の足

張り裂けそうなビル押す宇宙のあらゆる水

公共の脳裏を噛む柵あたり眠く

ガマに食われた虫ギロチンの露を啜る

激戦のそこかしこに音楽流れよ

本にきりりと引かれた眉火の粉へ没する

鍵穴に虎の毛へばりつく人家

橋脚全て失いなお凄まじく亀裂

呻きは肌一枚隔てて水色に

池は拳大乾いて絵筆を握る

宵は油に照り付けゲラゲラ飛び回る蛾

石段に弾む日傘の下の首

楽土に香る洗剤の前後が等しい

煮えた湯をそそのかす低い花時計へ

傷に代入する値で計器は狂った

朝へ川の字になり眠る生きた棒

俗悪な渦巻く粥を庭に放つ

手相に土めり込む逆立ち鳥も宿り

遠く召され石化の町のオブラート

嚥下の儀にひとりの顔面左から笑う

部位焼かれて工場の裏とみに明るく

蹂躙を背中に代える花から蜜

中枢より意思持つ帳艶極まる

推測一丁目を出ず風見鶏は回る

芒ヶ原へ弱肉はくすぐられに行く

キリキリ香る青に血をつくる柔らかな瞳

断面は鏡でしょうか好きな町

うろ覚えの狐雨樋に書かれ退屈

轟然と鮮やかな足垂れる祖先

青空トロリと翼呑み弾と化すカラス

滑らかな皮膚曰くと空白続く

エーテル介し滅びの床にトウシューズ

思惑に骨通わせる祈祷の末

期日に肌広げて街路飲み込む盾

土ごと墓逆さにきのこめく余韻

老婆現れ不確かな滝に一味削ぐ

多重に未完成な野原敷き星侮る

煤けている口から笛が巣立つ軒

受刑の器は針ただ流れていくばかり

峠のお化けが出る窓を見取り図で塞ぐ

怯えた猫の形の直方体滑る

食用の蝶に絡める甘い縄

貝洗うと塗装が剥げて大樹の中

魔界のツマミまだぬるく裸からどんどん手

黒い車社会ドッと左に日没

葉巻吸う唇の骨を足りていく

性器滾らせ持つ鳥固まる洲を純白に

とても良い朝のまま凍りつく画面

族長の皮めくる大移動の揺れ

前転頼もしくきれいな心のまま去る

筆舐めて湿りを藁半紙に移す

殻が訛ると娘になる許されない土地

真鍮の鳩に細さが全部吊る

落下の憂き目に黒塗り看板メキと精通

豊作を沈黙で祝うヘドロ画家

ヨーヨーの先密室は散歩され

城下に春云々と略し幹横たわる

人語捨ていたちごっこの未明へ葬る

美化して光る酒乱の線を残し迷路

仕組みに属せない麺の引率受け高嶺へ

データに濡れてただ成立を目指す魂

模型の咎ひらひら組む右脳左脳の間

拳大の握られず湿度計ねじ込む

無限増殖する熱スピンし大仏殿

禁止の論調雨漏りする軽石の土間に

開く呪文の口に腕白坊主を接続

散歩道は刻まれたネギの対偶を取る

我ら日常の鋼鉄となり非常ベル

飛び散る刃物に桃偶然切られて就寝

木造中二階イジェクト並行世界へ

遠くからの手紙封を切らず屍術にかける

一本背負いの腕に筒通し見えなくする

旅路は腫れ上がる象の皮膚どこまでも一枚

枯渇した温もりが痛い三日三晩

天意などなく潰れた鞠からアルコール

月の都に辞典ちぐはぐに送られてくる