二乗千年

ꂭꄨꂻꋅ

2019-12-01

襖も砕ける真空にコルセット巻く

水銀吸う窪みが鐘楼を裏とす

町内会を無機質に這う己のコピー

人間プラレール化計画を命じよ螺旋

闇は渇望を光らせて割る口のぬるさ

冷凍されこの世と決別する革紐

実がなり人がなる木謎めく井戸はふたつ

正弦波に苦闘の缶はちきれんばかり

血走る変光星の冬を握りしめゆくもの

スイッチ付近に散る羽毛線路は錆びた

小脇にバインダーの何・か/も・ここに小川があった

シート細切りに望むままに鋏は星座に

あたかも鳥静止を知り編まれるが如く

踊る病気が悲しすぎておとうさんと呼ぶ

残業する腹を他人の皮膚が擦る

魚を離脱し振り下ろす鈍い猿の骨

虚ろな坂優しくて音声データ

味のしない殻から出て黄身色の舌

重篤な黴に日夜の歌謡曲

国が見えるほど大きい片足を抜く

卵にエコー吸い込み追い込む羊淫ら

閉じつつある本に予感の輝く星

天を拒む蓄音機にねじられた痕

命下り川に土盛る長丁場

スキャナーから逃げて標語を塗り潰す囮

ハンカチの裂け目から湖底が溢れる

鼠の脳生きて蛾を踏む断面図

現実に鹿くっきりと引き戻す

半角カナのドア撃ち漏らす光彩の列

縦穴ずっと古道具屋磨り減るのみか

(ここから2015年)

篝火聞く異形に枕の自由あり

野暮に身籠る身体を開きまくる惰性

大工は箱が嫌い弁当は舌下に錆び

糸千本引き連れ仮面の乗るべき場所

いずれ帝になる芯をなぞる余生である

死魚となじるべきか紫の唇して

インクを煮る音は明るい薬みたい

土嚢鮮やかに案内して字でない定型文

干涸びて茨黄色くワニを暴く

窓拡張に拡張を重ね史実を蝕む

霊の悪くとぐろ巻く壁凹面見せ

パレードの大爆発に悴む首

獰猛に絡まる糸から飛び出す爪

クレーン動く黒焦げのコアラを目指して

閉店後に畳一枚と相席する

イワシ刺され長机歩く会議の闇を

端から踏み庭園一夜にしてノコギリ

形なく足であるかという伝令

口いっぱい綿詰め棺の上で吐く

お家はどこと問う声が坑道の道

部外者二人鉢合わせの初夏となりゆく

霧の回路は街にあり淀む力士の影

鉛筆以外の木を初めて見て手帳汚す

手掴みで知らずに食べたものが蟹

吹雪に突如床出現し跳ねるゴムボール

常世ウーパールーパーへ打診し続け朝

骨の宮に九九の位を婚がせる

真っ暗闇を掘れば段差が浮かび上がる

羽毛に沈み込む身体の一番長い喉

手櫛も木で出来ているか仏間においては

稚拙な溝は内に揺らしベルを装う

血の池にてタルタルソースを孕む母

露頭に揺蕩う網辱め岬は嗚咽す

酒代ほどの小鳥は儚い胸で踊る

柱がわたしより太くてわたしであり序の口

霊峰が噴く悪臭に喜びの歌

鍋にひとつある丸みへ海外を注ぐ

粉の魚を掬い出しコンクリで固める

車のガラスだけがその位置で侵している

踊りも知らず記名もなく広場に散る鳥

壺抜いて猿詰める泥の留守に俗世

記憶より定かな首に油を塗る

風船割る一張羅の真夏日の中

昔から娶る蔦に引きずる窓あり

予知してただ怒る座布団の上の鍵括弧

痩せて難しい色になる裸足でいる

川凍らせ過去になる箱開いている

この火が消えたら来てと少女はガソリンかぶる

豊かな町の影絵を指で絶つ命

ケーキ塗る首の数より手首の数

露に歪む旋風を離れゆく火災

画面の悲しい角で満たす前屈の光

西にひとりでいることも掻き鳴らしてくれ

草の削がれた場所にバス停立てに行く

長い豚の皮膚をめくると鼻がある

斧が好きで選ぶ店先に引きずる音

ひとひら蛇は尊く喉は深く

無垢で巨大な記憶もの言わぬおれのぬいぐるみ

栞としてヒトウサギ科の住む瓢箪

海から名乗りを上げる手が続々と巣箱へ

海底ケーブル一部強盗のテントを抜く

身の毛すべて冥府に仕送りして未婚

エコー止まず菜園の穴という家庭に

目の限り電線を見て部屋と化す

星座結ぶ指を離しておくズボン

北枕を開くと鉄それからの余生

無数に貫く川に脳は弁当捨てさせ

電灯は琥珀弄ぶ銀河の主

地下舐めて茨は故人の薄目開く

泣きじゃくる近い将来にも図書あれ