二乗千年

ꂭꄨꂻꋅ

2019-05-16

椅子をゆすぐ穴の底しかし地上である

予期の中に根が天を向く花もあり

歯を差し込まれた鳥体中で噛む空の青

誰にも墓石を担いだ記憶があり水噴く

メキシコから遠くラジオを壊す歌

たちどころにすべてを理解して寝る山羊

煙を不確かな日に寄せて割る狩人よ

嗜虐の円さに従うほど崩れても景色

けもの道来たもの焚き上げ長屋の灯

鉄工所の形に響く声なき声

頭上眼下を一枚にヨツンヘイム目指す

幾重に壁色付き緑を忘れさすか

スパイも複数形を捨て今は輝くバッヂ

尼侘しく跨ぐ光源で肝を照らす

茣蓙きつく巻かれ黒目の奥に立つ

月に泳げぬ骨を接ぎまだ騒ぐ柳

鏡写しに鳥飛ぶ砂の山可憐

髄美しく欺く火花を喪中に乗せ

苛烈な問い百烈に咲く爛れ歯車

工場越え春のヘドロが苦く沢

災いの甲羅浮くべし愛のダム

葉の混雑自ずから編まれ衛兵立つ

張り付いた紙に浮かぶ戦闘機濡れて

二枚で立つ瞳が縦に脱がれたドア

雨と胃液すれ違う迷わずの宮

火にくべれば火になる泡を吐いた過去

脳つぶさに次は清らかな男の駅

夜霧移るアルファベットに形残し

六畳にシトラス香る戒厳令

依存は船底に及び手長の毛が多量

予定地に神具売る旗旗旗地獄

暁雲に廃語満ちて月読も然り

難産の茅葺きに王が来るただ来る

データ欠損部位雅に地も天も喰らう

知性という我が耳にして削ぐ寒気

重体流れて星かも或る世知辛い工面

夜空めくる星がきれいな純血種

膨大な巨と虚交わる錆の塔

一羽二羽と破片発つ橋の黒ずむトラック

うたた寝継ぐ歌らしさとはかの疑う

運恐ろしく赤い実予め潰し

雨後密かに線を絆す柔らかな二の腕

ぼうっと浮かぶ異境回せば即ち貝

餌は無害の鳩を肥やし虚ろなタキシード

泥よこの愛すべき何者かは捏ねられ

介護バスを誰も降りず油圧で減る町

半球の感じ方に目は私物である

チューブ出す陶器の狸の腹割って

森侵す猿の監獄から放送

船クッキー缶に描かれ積み荷は人

肉嫌いの麦藁帽から父の匂い

鳴らせる靴は足首ごとゾンビと踊った

積み木の果て満身創痍の書架冷える

書に豊穣の黒点宿す矛の悪意

ラクダが燃えているんだピラミッド型の夜明けに

老師は成敗され天を討つ逆さの滝か

降りもし湧きもする寂寥にタクシー呼ぶ

扇の鉄流れて谷の秋を塗る

言いそびれてメメント・モリは最も無垢

水墨の内よりまず震えを憐れむ

波乱従え野辺に我は娘の端くれ

学深まる大事なひと皆錯乱し

位置ずれた自習室から悲しい光

私の目の裏側を見る母胎の夜

埋設から疑わしいゼロへの急須の旅

屋上から闇雲に縦線を引く

街灯ぽつりと名付けられ都市であるやむなく

地滑りの走狗にしては厚い氷

焦げ跡を経て龍と化す脱衣の息

残響が闇より白き蛾を濡らす

枯れた紫陽花陰に広げまだ舐められる

無地の旗に過剰な誰か巻かれて熱

神輿捨て蔦巻き添えに下る列

山と降る雨ふたなりに狐めく

処分待つタランチュラから愛の液

ノートの罫線突然身に感じられ打つ

常緑の犬賽の目を余分に持つ

ビーカー型の草原あるばかりの蜂起

国見ケ丘の不定形詩群は熊が好き

外出後の断絶は光るから消印

星減るほど深い鳥産む廓の舞い

奇面の鹿からくりの手形降る狭間に

不意に湿る時の不意は道すがら語る

象からいくつ豚取り出せばしぼむのか

光を吸う太陽の裏に脆い梯子

風吹き寄せ墓穴へ注ぐ柱にする

十を九と見る目ひとつに血を吸う夢

偲ぶほどに轟沈し続け沖の暗部

揉まれて奇襲もよいものミンチのこころに棘

雨つるむ楽園異常な管見せて

視野角を超えて耄碌の版画浮く

土抉ると秩序出てくる泡のなりで

種吐くぬるさのサンダルに果肉くねらせ

血をはじくドームに即ち類似しに

古代にいるはずの従兄弟から紙飛行機

海から粉が立つ数という概念乾き

歌揉み出す袋から黄昏にはぐれて

ひとごとに香炉が溶けたビルかぶる

娼館へギターをホラーと銘打って

呼べば揺れるフックに巨大な影釣り合う