二乗千年

ꂭꄨꂻꋅ

2019-06-23

呪の解かれた雨天の脳裏に咲く閉所

満天に地獄絵図敷き奏でる皮膚

星の春に柘榴と無花果を回す

自明の壺は山の中に孕ませておく

出土して殴り書きのメモ貫く湯気

霧の町鏡を低くして越える

杖で割るコウモリのひとひらが先

バス沈む上流下流に同じ刀

居間に再び表札があり思い出せない

違和感太る聞き覚えなら今作ろう

殺し足りて感情の庭弔う理事

仏滅の岩ヒヤリと歯だらけの海女

台形に塗られた犬まっすぐに巨大

一卵性の牢に濁りで鍵する貘

生け垣に顎ぶら下げて通り雨

靄引っ込むフラスコに断腸の里

独立したケーブルと見て愛する首

人間心理の奥底釣られていくペンチ

牛の数え方も知らぬ地が鳴く羽根震わせ

欠如も確かに在りブローチは酸で溶かす

誓う鎖の音だけして生米を撒く

レプリカが示す土星は双樹の胤

固い襟へ縫うように穂を攫う鴉

術師が同業者をバラし弄ぶ催眠

録音ボタン押す麓から死後硬直

ドリル刺すとその場で飛び回る精霊

なぜ生きてこの世に鳩を放つ兄

客は撫でる手を箱に適した形に

繭から見る地球殊更噴火で指す

首輪の痕さすり竹取る妻もなく

天変に座席放り出す車中の春

断面が匂いを放つノイローゼ

いずれ滅びゆくもの洗濯機で回す

中空の泥より複雑怪奇に蝉

青白い指紋が叫ぶ紙ヤスリ

弓よこんなぼくを星にしてくれるというのか

三日月に絵の具塗れの炎帝憑く

斑点になる狼藉の前日譚

口から異常に出る砂我渚を信ぜず

地球覆う池厳かに格闘して

参道で蝶と昼を交換する行商

薙がれて食い違う季節持つ山が鰭に

股開かせウサギが死ぬ物語積む

餓死と思いきや心臓がなく天井に穴

死角に鳥遊ぶ爆破のような賛美歌

不明者名簿に濁点残す抜歯痕

包丁ひとつに死のコード千幾星霜

絶交のさなか這うオスメスの区別

ぼかされて腐敗は進む雪国へと

画鋲彷徨う平地に縦が見つかるまで

聖ニンジンのマークに大工ら無情な腰

未読の窓へ四方八方から金棒

前夜から谺垂れ常という力

土持ち上げる腕の根が羊飼いを撫で

口ごもるそこを柩と目指す老婆

達筆に塗り潰され動けないもう寝る

草で編んだ現世を去って水位に就く

煮物から舌出して箸きれいにする

鳥葬へ食い入るように陣形組む

時計の音から離れてばりばり糸剥く

語源に語水源に水があり喀血

捨て犬の皮に毛がある焼け野原

峰にデスクがポツンと燃え飛び回るスーツ

黄ばむ膝に乗せ女を刈り上げる女

既に終わりのない密葬始まり楕円

電磁波絶え間なくクレープおいしくして心

打ち込まれてなお釘は釘の肉体を嗅ぐ

手で輪を作り老婆くぐらすひとときよ

国道を生きたまま壁に飾る孤独

蛇砕けて四角い偶然として集う

友の会散りばめて野山は青銅

女刷られて巨人となる界隈は火事

人知の飛沫上がるかに見えて皿を配る

囁かれ流れ込むアオミドロの愛

祝賀をやめろと回る螺旋の溝だから

蝋の中おいらんとして腫瘍吐く

落涙の距離を久遠と呼び手懐ける

釣り捗らず毛虫のこと考えては叫ぶ

雑巾で川拭きに行く痩せた裸

彼に合うべき焦点はなく砧打つ

笑うたび沼に固まる泡の波紋

球状の赤い亀裂は転ぶ私

迷路に四肢やがて神とは語る驢馬

スコップばらけてある記念である写真たくさん

諦める門がガラスを囲うとき

魔術のぬめり文字化した口に砥石の産卵

空に近い豹の内側から翼

和尚は暗闇から胎盤を見たのかと聞く

銀河にすり鉢持って片目の片草履

資本主義の朝日に輝く豚の破片

窪みを踏む投げた振り子に背を打たれて

ワニ祀るこの辺だった地図を敷き

川に稲妻洗う青年挙手したさに

シャボン玉潰す親たち仮面外し

屋根裏など空に泥を投擲する装置

闇が光るという嘘をトマトから抉る

地割れに煙突巻き尺力なくたなびく

絵図清潔雨を弾いてわたし溶かす

衣服綴じた神経日干しにいつか泣く

必要な菊焼く這う子の喪も美しく