二乗千年

ꂭꄨꂻꋅ

2016-07-09

バトン転がりやすく冷酷なる港へ

他人が卒園する音で寝る乳児の熱

梅抉り深夜に辿り着く義足

岩が鱗を纏い漠然と猫撫でる

(ここから2013年)

人体に同じ目玉喜びを助けてくれ

火花散る落馬もある法師の甘い罠

未明の雪静かに駆逐艦彷徨う

ナイター延長万年筆から鳥の死骸

神社の柱を紙袋に除け立つ厳かに

ウズミズタマと書けば総毛立つ渦と水玉

心電図を隠す大王の椅子きれい

柔らかな天井過不足ないぼくになろう

早熟なる頸動脈霊験あらたか

地球の地平に肉食極まる月面都市

樹形にカラフルに後頭部に侵略響く

水枯れて教区に茨の灰を撒く

過ぎた季節を歯で擦る子音ばかりが・かりが

この世に紙とペンがあれば正しい図形を書く

夜空にぽっかり足開く馬の記憶の扇

噴煙盛ん靴がここからなくなっている

水滴は孵化の確証生い茂る

魚殺す食うために母国見るために

花売りの籠は戦略的悲鳴

島を島たらしめる水あるいは曲

鉄管の内に貼り付く皮膚の老い

不審火を追って野原に身を焦がす

林檎熟せよただ偉人去るこころ澄んで

脱穀の香り黒くまつわる近隣

海嘯へ神輿が見えないほど鈴付け

画鋲ケースの分遠回りして岬へ

青春ざくろみたく口閉じ朽ちるも初雪

黒板に字を書く沈むより早く

目を押すとピアノが鳴りただ恥じている

凍る辞書のページを示す大星雲

轟きながら死ぬ老人を巣にする蜂

鳥も吠えることがある山林の煙

チョークで囲むと塗りたくなる遺品のピアノも

地の果てに砂糖狂いの女裂けて

仏頂面を見に来た間男五体に足りず

点線で死罪の弥生人を示す

穏やかな風にけん玉を捨てていく

鏡のない都市に腹違いがうようよ

車輪が動くひとりでに我らも働く

回想の鈴に触れ光と呼ばれた裸婦

万力みたいな夜すり抜けてパン買いに

コウモリの腹を裂き同意もなく潮騒

吊り橋の裏は甘い来世は翼を

スプーンは冷たい海の白い舟

完全な輪を持ち助けに来る老婆

放送設備にチーズ染み込むピアノ弾く

柔肌と肉結びつく水琴窟

外された首輪に少しめり込む地球

酢の置き場所定まりなく彷徨う根を呼ぶ

白鳥の帰りを待つ快楽主義者

海で口を洗うどこへもきれいな口で行く

ぼくをシャベルにしてくれという遺書も吊るす

片手鍋に指を見せている昼は明るい

雑居ビルに衝突して梅ばかり描く

張り裂ける網を漆の舌で舐める

まな板につがいの春は吹き寄せる

登場の杭の中には涙の日

煮えて或る形相に波打てば旗

孤島浮く砂に時計があるように

幻に花を賄うべき猶予

夕方は張り付いている凍えて

陸上生活二日目旅行しないルーペ

死に際に光る金魚を飯に盛る

焼け出され街の灯りが石つぶて

幾度も塀を緑に染める雨

池に水を足す首は椰子の木に似ている

ヘリ墜落断層鮮やかなる雨乞い

火の円を数珠にし菱型障子の水辺

バッタ放つ身体は風に脆く詩型

記憶の曜日に補助輪千対あり動かず

磁気テープの発音だけで満ちる踊り

密室が別室になる花瓶のドア

手紙で届く涙ロンドンには唾液

蜜柑しゃぶれば骨が見える家族なんだね

百年かけて閉廷しているその度夕日

本棚に本一冊石臼の音

不随ではない半身も告げている

触媒と森を隔てる湿気た帯

鬼蹴散らす土中の笛は地下洞窟

得手も嗜虐に花セメントを掻く動作

泥長の靴ニイハオと鳴くぞ潜る

菊に雲の黄色槍の赤知れ渡る

門下漏れば枕に首なめる徒弟ら

目眩ましに手を引く重い球の自我

フィルムに無名の母子ビルからは鮮やかな毛

猿は絶滅してわさびで舌を馴染ます

葉も翳りに通夜をかすめて蟻だんご

水は水のままちくわをわたしは暮らしを

子供の夢ははぐれて落ちるフラフープ

食べる前に触れる優しい多毛な叔母

蓮を結び坊主の聾を漂う茎

北端の岬にマスク女の目玉

泥塞ぐ恐竜さんクッキーの箱

土管で受け取る花束から昆布の味わい

波紋で作る大きな目は病にうなされ

すり身光る青く歩行者たち避けて