脳裏から脳裏へ靡く眩しい泥
通り過ぎた電車を頼りにシチュー煮る
屋上に揃った靴と静電気
獣の毛と連なる土この見晴らしに住む
水底の村へ百年分の髪
折り鶴を解けば痛切なる宇宙
人家に殖えた蕎麦そこへ訪ね来たる外套
蛙になり浜を照らす雑念は釜
カフェがらんとテーブルにバレリーナの爪先
泥をはこぶ郊外は美しい労働
指笛をやめてしゃもじをうつろな目
初耳に虹立てて寝る島の冬
セキセイインコの部位中立に喚く柱
蛙の目に花もまどろむ通り雨
そばに捨てる竹も脱いだ一肌と数え
魔が差す二階から豹柄の巨大な舌
蝋燭を立てて港を閉じ込める
光らぬ信号へ人夫等の恐るべき吐息
昭和初期高鳴る胸を山に送る
寝る空が見える角度の血の海に